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「切除不能のがん」摘出可能に
ステージ3の膵臓、4の胃で成果
病状が進行して「切除できない」と判断されたがんでも、手術が可能となるケースが増えています。薬物療法から手術への「転換」を意味する「コンバージョン手術」は、治療薬の効果で、がんが切除できるほど縮小した人たちに対して行われます。膵臓や胃のがんで成果が報告されており、新たな治療薬が登場すれば、対象患者は今後も増えそうです。
分子標的薬などが奏功 がんが予想以上に縮小
がんは、早期なら手術で取り除く治療が有力な選択肢になります。しかし進行して、重要な血管を巻き込むなどしていた場合、他の臓器への転移がなくても切除不能とされています。
状況を変えたのは、分子標的薬など新しい治療薬の登場です。
現場の医師によると、薬で予想以上にがんが小さくなる患者が増え始め、2010年ごろから、食物の消化・吸収に関わる消化器のがんを中心に、コンバージョン手術が広まったといいます。
成果が出ている病気の一つが膵臓がんです。早期発見が難しく、国立がん研究センターの統計によると、診断5年後の生存率は12%台にとどまる疾患です。
薬物療法から「転換」 5年後生存率が向上
コンバージョン手術に積極的な富山大学病院消化器・腫瘍・総合外科の藤井努教授によると、対象になり得るのは、がんの広がりは大きくても他臓器への転移はない「ステージ3」の膵臓がん患者です。
「治療開始前に、肝臓などへの転移がないことを、しっかり見極めることが重要だ」と同教授は話します。
CTやMRIなど複数の検査で転移なしと判断したら、抗がん剤を6~8カ月続けます。
がんが縮小し、本人の体力に問題がなければ、血管に巻き付いたがんに放射線を当てて取りやすくした上で、手術に切り替えます。
藤井教授らによると、富山大学病院で14~20年にコンバージョン手術を実施した41人を分析した結果、14人は後に転移が見つかりましたが、手術した全員の5年後生存率は58・6%となりました。
手術に進めるのは、ステージ3と診断された患者の10~30%程度ですが、藤井教授は「切除不能だった人でも長期に生存できる例が出てきた。大きな変化だ」と説明します。一方で「血液中にがん細胞が残っているためか、離れた臓器に飛んで再発する人もいる。それをいかに早期に見つけて治療するかが課題」と指摘します。
転移ありでも対象 大きな病院で実施
胃がんでは、比較的早くからコンバージョン手術が実施されてきました。腹膜や肝臓に転移している「ステージ4」の患者が対象となるといいます。
国立がん研究センター東病院胃外科の木下敬弘科長によると、複数の転移がある人でも、半年程度の薬物治療によって転移したがんが消えたり、数が減ったりする場合があります。安全に切除できる状態までステージが下がって、悪化せずに維持されていれば、手術に方針転換します。必ずしも胃を全て摘出する必要はなく
「がんを取り切れれば、長期生存が見込める。非常に有望な治療法だ」と語ります。
治療薬は、分子標的薬の後に免疫チェックポイント阻害剤も登場し、選択肢は増えました。しかし、効果は患者によって異なるため、現状で手術できるのは、当初切除不能と判断された胃がん患者の10%程度です。コンバージョン手術によって、全体として長期的な生存率がどれだけ改善するのかなど、医学的な評価が定まるまでには時間がかかる見通しです。
薬物治療の管理、手術の可否の判断、手術の実施を一つの診療科で担うのは難しいため、コンバージョン手術を行えるのは、複数の診療科が連携できる大学病院やがんセンター、民間の大きな病院に限られます。今後は、地域の小規模な病院からの患者紹介を含め「いろいろな意味での連携が必要です」
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